ちょこっと寄り道

キバナコスモス

茶の助終電で帰る忙しい毎日がひと段落つき、やっととれた休日。
早起きした彼女は、窓ガラスまでピカピカに磨き上げた。
アールグレイを丁寧に淹れ、奮発して買ったティーカップで、ほっと一息ついてみる。
けれども、心からアールグレイを楽しめないことに気付いた。
『私、心が、ちょっとトゲトゲしている?』
そう思った途端、愛車のキーを握り締めると、マンションの階段を駆け下りて行った。

 

  キバナコスモス  運転席に座り、リップグロスを軽く塗りなおし、CDを選ぶ。
『とりあえず、目黒通りを走り、首都高の2号線に乗ろう。』
目的地の思い浮かばない彼女は、シートベルトを締めながら、一人つぶやいた。
そのとき、懐かしい曲が楽しげに流れてきた。メロディと共に、『キバナコスモス』のオレンジ色の花たちが次々に花開き広がっていく。
去年の今頃、女友達と見た風景。秋風にコスモスがそろって揺れていたあの公園。
帰り道に立ち寄ったカフェのシフォンケーキの優しい味を想いだす。

 

『キバナコスモスを見に行こう』
突然の思いつきに彼女は、青空に向かって茶目っ気たっぷりにウインクし、去年の道筋をナビで確認する。
『目黒通りを走り、2号線に乗りそれから.....』
目的地の決まった彼女の愛車が、しっかりと前を見据え、静かに走り出した。
車内に流れるのは、素朴な手風琴のメロディ。

 

坂を上りきると目黒入口は、すぐそこ。
自然教育園のこんもりとした緑が見えた頃、彼女のトゲトゲは、ちょっとしたドキドキへと姿を変えた。

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