Volume 3
オトナドライブ
「あ、ごめん今のところ左だった(笑)」
「えー!これ、このまま進んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫(笑)」
「笑い事じゃないです!」
だって私、車なんて地元で軽しか運転したことないのに… 今、首都高を、品川ナンバーの、高そうな車で走ってる!!
これは社長の車。
半年前から働いてる、オーガニック化粧品をネット販売してる小さな会社。ここだけの話、ボーナスも結構いただいたので、売り上げは上々のよう。
社長は一代でこの会社を立ち上げて、過去には色々失敗もしたらしいんだけど、そういう経験すらも魅力となって顔に出ている、43歳。ちなみに、バツイチだけど子供はいないってことは一応調査済み。一応ね。
年始の朝礼で、急に今年の抱負を聞かれたものだから「えっ…こ、今年は…車を運転できるようになりたいです!」「仕事のことじゃないのかよ(笑)」ってツッコミ入れられて。
その時の一言のせいでこんなことに…。こんなことならペーパーのままで良かった!
仕事帰り、家まで送ってくれるって言うから「ラッキー!」なんて思ったあの時の自分を呪いたい(泣)
「三茶から乗って、丸の内の方ぐるーって回って戻ってくるだけって言ってましたよね?」
「運転できるようになりたいって言ってただろ?ほら、今お前レインボーブリッジ運転してるぞ?綺麗だなー!」
「そんなの見る余裕ありません!」
「そんな怒るなよ(笑)僕の車の運転席に乗せた、初めてのオンナだぞ。自信持て!」
「助手席には、さぞ沢山のオンナを乗せてきたんでしょうね!」
「お!軽口たたく余裕が出てきたじゃないか(笑)」
「もー!この後どうすればいいんですか!!」
「じゃあせっかくだから…『台場』って出てくるからそこで降りて」
「何が『せっかく』なんですかー!!!」
「まあまあ(笑)」
死ぬ思いで高速降りて、これまた死ぬ思いで駐車して。3月なのにもう汗だく。
「飯でも食ってくか!」
お台場の高級ホテルの鉄板焼き屋さんに慣れた様子で入っていく。大人だなぁ。大人のオトコ…だな。
「僕はノンアルコールビール。彼女はビールで。」
「え?」
「もうこれ以上怒られたくないから帰りは、僕が運転させていただきます。」
結局、3日分くらい食べ貯めさせてもらったから、今日の社長の無茶ぶりは許してあげることにした。
ほろ酔いの帰りのドライブはただただ快適で。
「レインボーブリッジ、先程の分もどうぞよくご覧ください。」「もうすぐ東京タワー見えてくるぞ。」「で、あれ六本木ヒルズな。」
さすが大人のオトコだよね。首都高から見える夜景案内も慣れたもんだ。
「ちなみに一応言っとくけど、助手席に人乗せたの…久しぶりだからな。」
「えっ…?」
「あとさ、運転うまいじゃん。首都高あれだけ運転できたらもうどこでも運転できるよ。」
「本当ですか?!」
「じゃあ…次の練習いつにしよっか?」
「もう!しばらくは大丈夫です!!!」
「なんだよー!楽しかったのは俺だけかぁ…!ちぇっ…」
何それ!急にズルい!
散々上から来といて急にしょぼーんみたいな顔するなんて!一人称も急に『俺』だし!大人のオトコのそれはズルい!
「社長、その感じズルいです!!!」
「ズルい?」
「わ、私だって楽しかったです…」
「あはははははははは(笑)」
「ちょ、ちょっと何がおかしいんですか!」
「いや、お前はホント可愛いな。俺、お前のことやっぱり好きだわ。」
え…?えええええええええええええええぇ?!
「ま、酔ってない時に、また言わせて。」
その後家まで送ってもらったけどドキドキしすぎて、何話したかあんまり覚えてない。ドキドキしたままベットに入って、今もまだドキドキしてる。
とりあえず、明日会社にどういう顔で行けば良いの?誰か教えて!!!
みたいなことが大人になったらあると思ってましたよね。ないですよね。自分のお金で鉄板焼き屋さんに行こうと思います。大人のオンナなので。
(次回は3月更新予定です)
PROFILE山﨑ケイ(お笑い芸人)
1982年千葉県生まれ。2013年、相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成し、男女の日常をネタにしたコントや漫才で人気を博す。M-1グランプリ2016ファイナリスト。「ちょうどいいブス」としてメディア出演多数。
現在、YouTubeチャンネル【相席YouTube】を開設中!
https://www.youtube.com/channel/UC8PClLM0It8xXOnNtB1vzOg