Volume 4
コウ君
世田谷の病院にお見舞いに行った帰り道。
「ごめんね、送ってもらっちゃって」
「いやいや、1人だと退屈だしむしろ良かった!」
「おばあちゃん、病院のご飯の文句ばっかり言ってたね(笑)」
「あの様子だと…あと50年は生きるな(笑)」
「しかし、あんなに小さかったコウ君に車で送ってもらう日が来るとはねー」
「何年前の話してんだよ(笑)」
コウ君は7歳下のいとこ。小さい頃は親戚の集まりとかで1年に1回会うくらいだったけど、大学がウチの実家から近かったから、コウ君のお母さん(つまり私の叔母で、お父さんの妹)が「20歳になるまでお願い」ということで大学の最初の2年はウチの実家に住んでたの。
最初は若い男の子が家にいるの変な感じもしたけど、私ひとりっ子だから弟ができたみたいで嬉しかった。
で、コウ君も20歳になってウチを出て、私も一人暮らしするようになって。
大人になると中々いとこに会う機会ってなくなるもので、4年ぶりに会ったコウ君は大学卒業して、社会人になってた。すごく大人っぽく…カッコよくなってた。
いとこって確か結婚できるんだっけ?
…いかんいかん!彼氏いない生活が長くなるとこんなこと考えてしまう…!
「いとこって結婚できるんだよね」
え…?
「俺、昔調べたことあって」
「へ、へー!なんでー?」
「大学生の時…本気で好きになっちゃいそうだったから…」
「へー!」
『へー!』ってなんだその返し!何か言わなきゃ…。
ダメだ…何も思いつかない。
とりあえず「こんなところにこんな建物あったんだ。へー!」みたいな顔して景色でも見てよ…と思ったのに、大橋ジャンクション!車は右に、トンネルに入っちゃった…。
「さ、最近の若い子は車に興味ないって聞くけどね!」
最近の若い子って…。急におばさんみたいな…私は何を言ってるんだ…。
「一緒に住んでた時、彼氏に車で送ってもらってたの何回か見かけたんだ」
「え?私が?」
「俺、まだ大学生で免許も持ってなくて、何か男としてのレベルの違いを見せつけられてる気がしてすごい悔しかった」
「あ、あの人はほらちょっと年上の人だったからね!」
「だからバイトしてお金貯めて免許取った」
確かに、あの頃コウ君めちゃくちゃバイトしてたな。
「まあこの車はカーシェアだけどね(笑)」
「あはははははははははは!」
私!笑いすぎ!そんなに笑うことではない…!
「その後、その彼氏と別れたって聞いて」
「そ、そう!なんか浮気されててさ。アハハ!」
「その時もそうやって明るく振る舞ってて、もうダメだ…って思った」
「だ、ダメだ?」
「本当は抱きしめたかった。俺の前では…思いっきり泣いて欲しかった」
やばい…胃がきゅーってする。
「これ以上好きになったらダメだ、って思ったんだ。」
この胃の"きゅー“は心理的なものなのか、大橋ジャンクションのグルグル構造によるものなのか、どっちなの!
こっちがこんなにテンパってるのに、コウ君はライトつけて、スピード調節して、車線変更して、なんでそんな冷静でいられるの…。
「でもその後、好きになる人なる人、年上の人ばっかりでさ。たぶん『いとこだから…』って無理やり抑えた気持ちだったから、ずっと忘れられなかったんだと思う」
車は初台南で高速を降りた。もうすぐウチに着く。
「実は俺さ、最近彼女ができたんだ。初めて年下の女の子で。すぐ泣くし、ワガママで、もう振りまわされっぱなし(笑)」
次の信号を左折したらウチに着いちゃう。
「俺が言うことでもないけど…幸せになってね」
「え…」
「さっきばあちゃんに『頑張って花嫁姿見せれるようにするから長生きしてよね(笑)』って言ってたから」
「あぁ(笑)でもおばあちゃん、あと50年は生きそうだからそれまでには何とか頑張る(笑)」
最後は年上らしく何とかユーモアのある返しができた。と思う。
なんかこの1時間でドキドキして、キュンキュンして、最後には失恋した気分。
じゃあね、と別れて次会うのはいつになるかな。
とりあえず、マッチングアプリ登録しよう。男は有料のやつ!!!
問題:以上の文章を読んで、筆者の妄想ではない部分はどこか答えよ。
答え:私ひとりっ子だから
(次回は4月更新予定です)
PROFILE山﨑ケイ(お笑い芸人)
1982年千葉県生まれ。2013年、相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成し、男女の日常をネタにしたコントや漫才で人気を博す。M-1グランプリ2016ファイナリスト。「ちょうどいいブス」としてメディア出演多数。
現在、YouTubeチャンネル【相席YouTube】を開設中!
https://www.youtube.com/channel/UC8PClLM0It8xXOnNtB1vzOg