Volume 5
たぶん…ラストドライブ
『たぶん…ラストドライブ』
「ナビはさ、いつもみなとみらいで高速乗って横浜駅西口ICの方に行けって言うんだけど…ちょっと横浜公園IC側から行ってみて良い?そっちの方が早い気がする!」
彼のこういう勘は大体外れる。
彼は前の会社の同期。特別仲が良かったわけじゃない。でも久しぶりに飲み会で再会してからこうやってたまに会ってる。
デートは大体横浜。彼の家は千葉だから、東京挟んで神奈川まで来れば大丈夫だろうということで。
何が大丈夫なのか、と言うと。
「結婚は悲しみを半分に、喜びを2倍に」ってよく聞く。それで言ったら、不倫と結婚は同じだ。
だって、不倫相手なんて所詮2番手。だからクリスマスとか誕生日とか一緒に過ごせなくても別に悲しくなんてないし、逆にもし一緒に過ごせた時はものすごく嬉しい。
それを友達に言ったら、
「強がるのやめな。男は絶対家庭を捨てないよ。不倫なんてやめなよ!」って。
友達は1つ勘違いしてる。私は彼のことを好きなわけじゃない。
私はただ、どこかに出かけた時にお土産を買って帰れる人が欲しかったの。
奥さんから奪おうなんて考えたこともない。そもそも結婚願望なんてないし。
今は仕事がすごく楽しいし、逆に不倫くらいの方が私にとっても都合良かった。
でもそれも今日で終わり。
彼には何も伝えてない。伝えないまま終わりにする。
彼との共通の友達から彼の奥さんが妊娠したことを聞いた。
家族の話は彼もしないし、もちろん私から聞くこともない。気にもしてないつもりだった。でもその話を聞いて、奥さんともそういうことしてたんだ…って、そんなの当たり前の事なんだけど、ショックを受けている自分に気付いた。
それでもう終わりにしようって。
車がベイブリッジにさしかかった。彼との関係はあと1時間でおしまい。
「ねぇ…初めて2人で遊んだ時、山下公園行ったの覚えてる?」
勘のいい男なら、急に思い出話をし始めた女心に気付くだろう。
「あー行ったね!ああ!ベイブリッジ一緒に見たもんね!」
気付かないよね。
そういう明るさが、不倫してるっていう罪悪感を感じさせないでいてくれるんだけどね。
「わー!この先事故渋滞あるっぽい!」
やっぱりね。
「もーナビ通り行けば良かったんじゃない?」
「いや!実は、一緒にドライブする時間が長くなると思って、あえて渋滞しそうな方を選んだみたいなところある。」
「絶対ウソ(笑)」
「バレた?(笑)」
不倫てもっと落ち着いた、年上の大人の男の人とするものだと思ってた。
もっと悲壮感というか、もっと文学的な雰囲気のあるものだと思ってた。全然違う。
彼といるとただ楽しいだけ。
しばらくしてトンネルに入った。
「トンネルで渋滞ハマったら嫌だなー!俺、閉所恐怖症気味なんだよね…」
「でも一緒にいられて嬉しいんでしょ?」
「そ、それはそう!」
「抜けたー!大したことないトンネルだったな!もう、いつ渋滞来ても大丈夫!」
とか言ってたのに…またトンネル。多摩川トンネルだって。
抜けた、と思ったら次は空港北トンネル。
トンネルの出入りだけで、まるでジェットコースターに乗ってるかのように騒いでいる彼を見て、こういう人とだったら結婚しても良いなって思った。もっと一緒にいたい。
でも、大井から東京港トンネルに入って、ここもあっさり抜けた。
「なんだ全然渋滞してないじゃん!だからこっちの道が良いって言っただろ?」
「ズルくない?(笑)」
タワーマンションが立ち並ぶエリアを過ぎ、葛西で高速を降りる。もうすぐウチに着く。
「ご飯どうする?」彼が言う。
「今日友達と飲みに行く約束してる。朝までとかになるかも。ごめん」私、言えた。
「なーんだ。じゃあ今日はウチ帰るね」
「うん、じゃあね。」
これで最後。今回こそこれで最後にする。
もし彼が、もしも運命の人だったら、今終わりにしてもどこかできっと出会ってしまうはず。だから平気。連絡先も消す。彼からの連絡もブロックする。
でも…いつかもっと幸せになれる運命の人に出会えたら嬉しいな。
今流行りの不倫というものをしたとしたら、と妄想してみました。
したことないですよ?妄想ですよ?妄想だって!したことないって!
(次回は5月更新予定です)
PROFILE山﨑ケイ(お笑い芸人)
1982年千葉県生まれ。2013年、相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成し、男女の日常をネタにしたコントや漫才で人気を博す。M-1グランプリ2016ファイナリスト。「ちょうどいいブス」としてメディア出演多数。
現在、YouTubeチャンネル【相席YouTube】を開設中!
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