Volume 6
秘密のデート

『今から家出るよ』

彼からの連絡を受けて、私はメガネを外す。おめかし？ううん、メガネかけてる方が小顔に見えるし、トレードマークでもあるから、本当はかけて行きたい。お化粧取れるの嫌だけどマスクもする。彼のため。

ドキドキしながら、家の裏の細い路地で待つ。

「お待たせ！」

車の窓があく。
この人本当に私の彼氏なんだろうか…。いつ会っても、何度見ても、めちゃくちゃカッコいい！

彼と仲良くなったのはクイズ番組の収録。
彼はドラマの番宣で来ていて同じチームになって、話してみたら偶然にも実家が近くて地元話で盛り上がっちゃって、何回か飲みに行ったの。
でも、カッコいいし、結構年下だし、好きにならないようにしようって思ってたのに、まさかの向こうが告白してくるもんだから、もうそれは仕方ないよね。

彼のことは、結構ドラマとか見る人なら多分見たことあると思う。最近はCMとかも出てて、今すごく大事な時期。

だから付き合ってからはドライブデートばかり。車は新宿から首都高に入り、目的地へ向かう。

あっという間に目的地に着く。あっという間なのは、彼といると楽しいから、とかではなくて、本当にあっという間に着く。

私たちの行きつけ、代々木パーキングエリア。

合流が難しかったり、旅行とかの人はもっと郊外の大きいサービスエリアに行きがちだったりして、他のPAやSAのお客さんの層とは少し違う。
ここでご飯を食べている人はご飯を食べることに集中している感じで、そういう意味でも彼とのデートに向いてる。

彼はいつものようにカツカレー。いつも美味しそうだなーと思うけど、女子として食べちゃいけない気がして普通のカレーにしちゃう。麺類は横並びなら食べやすいんだけど、向かい合うと上手に食べられるか心配だから、結局カレー。彼の食べるスピードをなんとなく見ながら、彼よりは少し遅めに食べ終わるなどの工夫をしながら食べるカレー。女子は色々大変なのだ。

「そういえば、明日ドラマで早いって言ってたのに大丈夫なの？」
「うん！ちょっとだけでも会いたくなっちゃって…。急にごめんね」

カッコいい系かと思っていたら、カワイイ系でもある。

「全然！明日、劇場出番だけだし！」
「劇場って、無限大？幕張？大宮？あ、ルミネか？それとも沼津？」

劇場にめちゃくちゃ詳しくなってきている。

「あ、うん、無限大でわけわかんないライブあって！何やるか前日になっても全くわからないライブ！」
「そんなの怖くない？芸人さんてすごいよなー！本当尊敬する！」

「いや、俳優さんの方がすごいよ！」
「えーなんで？」
「だって好きでもない人に好きとか言えちゃうんだからさ」

あ、なんか面倒なヤキモチおばさんみたいな言い方になっちゃったかな…

「僕は、君のことが好きだ」
「え…？何…？」

「今のは好きな人に言った『好き』でしょうか、それとも好きじゃない人に言った『好き』でしょうか！」
「えぇ？じゃあ…ちょっと芝居じみてたから、好きじゃない人に言った『好き』かな？」

「ブー！今のはケイちゃんに向けて言ったので、好きな人に言った『好き』でした！」
「はー？そんな言い方じゃ気持ち伝わりませーん！本当に俳優ですか？」

「はー？じゃあ…『君が好きだ』これはどっちでしょうか？」
「えー！今のはー？どっちー？」

楽しい！何この楽しいクイズ！

「私にも問題出させてー！これはどっちでしょうか！…『あなたのことが好き』」
「うーん、これは…好きな人に言う『好き』！」

ピンポーン！彼に向かって言ったからピンポーン！いや、恥ずかしい！

「ち、違います！い、今のは演技でした！」
「本当かなー？ふーん。演技だったんだー？へー？」

年下に攻められるの…楽しい！

「今のドラマ終わったらさ、ケイちゃんと旅行とか行きたいなー！」
「うん…行きたいけど、旅行は難しいんじゃない？」

「俺は正直、別にバレてもいいと思ってるんだ。そしたら色んなところに一緒に行けるし」

とても幸せ。でも彼は8歳年下。

好きな人とずっと一緒にいたいという女の子の気持ちと、年齢差や彼の俳優としてのキャリアなどを考えると期待しすぎてはいけないという大人の女の考えが交互にやってくる。
女子は色々大変なのだ。

「そうだね。じゃあ、もうちょっと一緒にいたいから、遠回りしてウチまで送ってもらっていい？」

これくらいが女の子と大人の女の良いとこ取りのワガママ。
次はいつ会えるかわからないけど、明日のわけわからないライブが終わったら連絡だけしてみよーっと。

 

さて、これは匂わせか、妄想か。どちらでしょうか！

（次回は6月更新予定です）