相席スタート・山﨑ケイ

Volume 7
彼のドキドキドライブ

今日は、初めて2人で埼玉に帰る。

「お義父さん…」
『君に「お義父さん」などと呼ばれる筋合いはない!』

「ですが、僕は娘さんと結婚を前提に…」
『娘はやらん!』

「僕が必ず幸せにします!」
『…わかった。娘をよろしく…、、、ってちょっと待って!今のところでUターンして中野長者橋から首都高入るって言ってなかった?」

「えぇ?!しまった!」
「もー(笑)ちょっと待ってね…あ、でも調べたらそっち事故渋滞あるみたいだから代々木から乗って箱崎とかのほうから抜けて行こうか!」

「頼りになります…」
「旦那さん頼みますよ!」

お察しの通り、結婚の挨拶というやつだ。
さっきから挨拶の練習させられてるけど、ウチのお父さんはそんな想像しているような人じゃない。たぶん彼も、会ったら1秒でわかると思うけど(笑)

でも彼は何日も前からとても緊張していて、そのせいで帰りの運転はできないらしい。
たくさん飲まないと緊張して話せないから「帰りの運転は頼む!」って。電車で行けば良いじゃんて言ったのに、酔ったら電車で帰れるか心配だからって。
どれだけ飲むつもりなんだって話(笑)

ま、お母さんも私も飲まないから、お酒付き合ってもらえてお父さんはめちゃくちゃ嬉しいと思うけど。

「ねぇスカイツリー見えたよ!」

彼は運転に集中しているのか、それとも挨拶に緊張しているのか、返事がない。

「スカイツリーが見えましたよ、あなた」
「おぉそうかい、おまえ」

「見てください、あなた」
「どこだい、おまえ」

これは「あなた」「おまえ」と呼び合う2人の遊び。大体2ラリーくらいでいつも終わる。それくらいの面白さでつまらなさの遊び。

「全然見えなかった…」
「しばらくスカイツリー見えるゾーンだからまたすぐ見えるよ!」

「あ!見えた見えた!」
「ね?あ、ほら浅草のアサヒビールのビルも見えたよ!」

「あ、あのウン…」
「やめて!ビールの泡ね!」

「お義父さんの前で、こういうこと言わないように気をつけないとだな…」
「本当だよ!」

言っても何の問題もないけど、最初だからちょっとビビらせておこう。

実は、お母さんと彼は会ったことあるんだ。軽くランチしただけだけど。お母さんには付き合う前から色々相談したり、付き合ってからは愚痴も含めて話たくさん聞いてもらってる。

ヤキモチ妬いちゃうかもだから、ランチしたことはお父さんには内緒ってことになってるけど(笑)

三郷のジャンクションをグルーっと回って料金所を通過したら、10分くらいでウチに着く。家に電話しなくちゃ。

「もしもし?あ、お父さん?」
(「おー!!!もう着く?わかったわかった!楽しみに待ってる!おーい、お母さーん、もうすぐ2人着くってー!!」)

相変わらず、声がデカい!!!受話器から耳離しても余裕で声聞こえる!声がもれまくってる…

「お義父さん…確かに仲良くなれそうな気してきたな!」

会ったら1秒どころか、会わずしてどんな人かわかっちゃったみたい(笑)

余裕ぶってたけど、ウチが近づいてきたらなんだか私もちょっと緊張してきちゃった。
お父さんと彼、仲良くなれたらいいなぁ。
でも大丈夫。頼りないところもあるけど優しくて、私を大事にしてくれて、涙もろいところ、お父さんに似てるから。

近くのパーキングに止めて、ウチに向かう。お父さんとお母さんが家の前で手を振っている。私は手を振り返し、彼はペコリと頭を下げている。

なんか…私…幸せだー!!!!!!

 

この妄想ドライブデートも読んでくださる皆様のおかげで7回目を迎えました!
イチ経験したものをヒャクまで妄想で広げた回もあれば、ゼロ経験をヒャクで妄想したもの、逆に妄想ということにしてかなり経験に基づいているもの、それぞれなのですが、
さて、今回はどうなのでしょうね。

(次回は7月更新予定です)

PROFILE山﨑ケイ(お笑い芸人)

1982年千葉県生まれ。2013年、相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成し、男女の日常をネタにしたコントや漫才で人気を博す。M-1グランプリ2016ファイナリスト。「ちょうどいいブス」としてメディア出演多数。

現在、YouTubeチャンネル【相席YouTube】を開設中! 
https://www.youtube.com/channel/UC8PClLM0It8xXOnNtB1vzOg

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