相席スタート・山﨑ケイ

Volume 9
高橋家BBQパーティ

久しぶりにお父さんの運転の車に乗っている。今日も順調に酔ってきた…。山手トンネルもやっと抜けたとこだし、景色を見て紛らわそう。

車は大井ジャンクションを横浜方面に進んでいる。
大きい公園があったり、川が流れていたり、とても気持ちが良い。

「お母さん、サキの家に何時頃着くかちゃんとサキに連絡はしたのか?」
「だから、川崎のコストコで待ち合わせにしてるって言ったでしょ?お父さんはすぐ忘れるんだから!」

「コストコで待ち合わせなんかしたらバーベキューに関係ないものまでたくさん買わされるぞ!」
「別にちょっとくらい良いじゃない!」

「全く。お母さんは甘いんだから」
「マキ、お母さん甘くないわよね?」

やばい。巻き込まれた。

「もうすぐお姉ちゃんのとこ子供うまれるし少しくらいは良いんじゃない?」
「ほらねー!2対1でお父さんの負けー!」

まったく。大人気ない。仲が良いんだか悪いんだか。

今日は、就活疲れしている私を労うために、家族がバーベキューパーティを開いてくれるらしい。

パーティといっても、横浜に住んでる姉夫婦の家にお邪魔して庭でバーベキューするだけだけど。

相変わらず両親は、あーでもないこーでもないと不毛なやりとりをしている。どうせお父さんだってお姉ちゃんにおねだりされたらなんでも買っちゃうんだから。

それよりお父さん、運転に感情が乗っちゃって、アクセルやらブレーキやらキュッキュッって踏むから、本当にケンカしないで欲しい…。

ふと携帯を見ると、知らない番号からの着信。

携帯番号だし、面接した会社からではないはずだけど、もし万が一担当者の人だったりとかしたら大変!

「はい、高橋です」
『もしもし?久しぶり!』

就活関係ではなさそう。だけど…誰?

「失礼ですがどちら様でしょうか?」
『元カレの声、忘れた?(笑)』

え?カズキ?
そっか私、連絡先消しちゃったんだった。

「あ、あの…今、車なので後でかけ直しても良いでしょうか??」 『そっか、でも今から飛行機乗っちゃうんだ』

飛行機?

「おいマキ?どう思う?…マキ?なんだ電話中か」

『あ、ごめん。もしかしてデート中だった?』
「違う違う!今の声はお父さん!だって、ほら、彼氏なんていないし!」

彼氏がいるかなんて言う必要ない!
しかも思ってたより大きい声出ちゃって、親もなんだか聞き耳を立てている…。

ちょっと窓を開けて、首都高の喧騒をお借りする。これで親には聞こえないはず。

「飛行機ってどこか行くの?」
『とりあえずミャンマー』

「ミャンマー?」
『うん、タイとかカンボジアとかその辺まわってこようと思ってる』

「そうなんだ、なんかすごいね」
『全然すごくないよ。そっちは就活どう?』

「まぁボチボチかな」
嘘。本当は全然上手くいってない。

『さすがだね。マキなら絶対大丈夫だと思った!』
「ま、まあね!ち、ちなみにどれくらい行くの?」

『全然決めてない。いつ帰ってくるかわからないけど、その時にはもし気が向いたらで良いから土産話でも聞いてよ!』
「話だけじゃなくて、お土産も買ってきてくれるなら良いよ!」

『わかったよ(笑)そろそろ行かなくちゃ!最後に声聞けて良かった。お互い頑張ろうな!』
「うん、じゃあ元気でね!」

嫌いで別れたわけじゃない。
大学入ってすぐ知り合って2年半付き合った。

人としては好きだったけど、カズキが「就職はしない」って言い始めてから何かとケンカが増えて。ウチは両親もお姉ちゃん夫婦も安定した職についているから、この考え方の違いは一生一緒にいるのは難しいかなって。

でも今日久しぶりにカズキの声聞いて、エネルギーに満ちてて、悔しくなった。
カズキは「就職をしない」っていう選択肢を選んだ。私も「就職する」っていう選択肢を選んだんだ。みんながするから、4年生になるから、なんとなく、じゃない。

両親はまだ何かもめている。
「そんなこと言ったら大学生の時、お父さんさー」
「おい、何年前の話掘り起こしてるんだよ!」

「マキ、聞いてよ!お父さんね大学生の時急に大学辞めるとか言い出してー!」

ん?何その話。

「世界一周してくる、とか言って。辞めるのはやめてほしいってお母さんとおばあちゃんで説得して、とりあえず休学にしてバックパック1つで行っちゃってさー」

ふーん。そんなことがあったんだ。

空港が近い。飛び立つ飛行機に念を送る。
「私も頑張るからー!頑張れよー!」

カズキが乗っている飛行機では、おそらくないけど。
そもそも羽田じゃなくて成田か。

まあいいや!次会う時まで、私も頑張ろう。もしかしたらその時には彼氏ができて「元カレには会うな」とか言われて会えないかもだけど!

とにかく、私も、カズキも頑張れー!!!

 

ちなみに私の父は車の免許を持っていないのでいつも後部座席に乗ります。運転は母か私がします。免許を持ってもいないのに私の運転の下手さを馬鹿にしてきます。腹が立ちます。

(次回は9月更新予定です)

PROFILE山﨑ケイ(お笑い芸人)

1982年千葉県生まれ。2013年、相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成し、男女の日常をネタにしたコントや漫才で人気を博す。M-1グランプリ2016ファイナリスト。「ちょうどいいブス」としてメディア出演多数。

現在、YouTubeチャンネル【相席YouTube】を開設中! 
https://www.youtube.com/channel/UC8PClLM0It8xXOnNtB1vzOg

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