Volume 10
「ハイスクールジェスチャーラブゲーム」

あー良い天気。
首都高を走る車の窓を空ける。真夏とは違う気持ちの良い暑さ。ほんっとムダに良い天気なんだから。

せっかくの連休だっていうのに、出張で福岡に行くお父さんを空港まで送るのに付いて行くって用事しかない。
さっきお父さんを見送ったから、もうメインイベント終了。

中学の頃だったら、美咲が遊んでくれたのになー。彼氏ができてから全然遊んでくれない。私も美咲と同じ共学の高校行けば彼氏できたのかな。

「中華街でご飯食べて帰ろうか！」
お母さんは、お父さんが出張でいないといつもちょっとだけ嬉しそう。結婚して何年も経つとそういうものなんだろうか。

ふと前の車を見ると小学校に上がる前くらいの男の子がこっちを見ている。
手を振ると、恥ずかしそうにして隠れた。そしてまたひょこっと顔を出す。
私が手を振る。男の子が隠れる。また顔を出す。どうやらこの遊びにハマったようだ。

仕方がない。お姉さんが遊んであげよう。

男の子が隠れている間に、私も隠れておいて男の子がそろそろひょっこり出てきたであろうくらいの間を待って、ひょこっと顔を出す。

男の子どハマり。何度やっても喜んでくれる。もーかわいいな。

よし次はマンネリ防止のため、結構長い時間隠れて、溜めて溜めて溜めて、勢いよく飛び出すぞ。待ってろ少年。もう良いかな、いやまだだ、もうちょっと…よし、今だ！えいっ！！

え…？
少年…隣のイケメンは誰？

少年の隣に男の人が座っているのは見えてたけど、勝手にお父さんかと思ってた。たぶん私と同じ年くらいだ。
恥ずかしい…良い年して子供と真剣に遊んでいるところを見られた…。

イケメンが「この子と遊んでくれてありがとう」という感じでペコリと頭を下げてきたので、「こちらこそ」という感じで私も頭を下げた。

イケメンが「近いね！」という感じで飛んでいる飛行機と自分の顔の前で手をパタパタさせてきたので、「大きいですね！」と飛行機に押しつぶされる感じの動きで表現した。

その後も私たちのジェスチャーゲームは続いた。
私がその間に知ったことは、イケメンが今日暑いと思っていること、隣の少年は5歳であること、少年が私にはすっかり飽きて今はゲームに夢中であること。

しばらくすると少年がイケメンに話しかけ、2人とも前を向いてしまった。

何か…久しぶりにドキドキしちゃった。だってお父さん以外の男の人と話すの久しぶりだったし。これを「話した」と言って良いものかわからないけど。

ドキドキも醒めやらぬうちに、イケメンがまたこちらを向いてきて、今度は「左！左！」と指で言ってくる。
どうやら次のジャンクションで左に行く、という意味らしい。私たちが向かっている中華街はそのまま真っ直ぐ行けば直に着く。

ディズニーランドのジャングルクルーズのお兄さんを一瞬好きになっちゃう現象よりも短い片想いがもう終わるのか…と思ったその時、

「大黒パーキング寄っていい？」

お母さんからの急な提案。聞くと、昔よくお父さんと行っていたらしい。その時はその意味がよくわかってなかったけど、楽しいバブル時代を過ごしたってことみたい。久しぶりに行ってみたくなったんだって。どうせならお父さんと来ればいいのに。変なの。

イケメンが「おぉー！こっち来たか！一緒一緒！」という顔をしている。

グルグルと道を下っていって大黒パーキングに着いた。ドキドキ…。
でもそんなドキドキもむなしく、駐車場は混み合っていてイケメンの車を見逃してしまった。

「お父さんに写真送るからブラブラしてくるね！」という母を尻目に、私は買うつもりも食べるつもりもないのに売店とフードコートをウロウロして、トイレの出入り口付近もウロウロして（完全に不審者！）でもダメで、「片想いもついにここまでか…」と車に戻ろうとしたその時、

「お姉ちゃんさっきは遊んでくれてありがとう」

少年！の横にイケメン！！！！！片想い延長！

軽く話して同じ横浜市内に住んでるのはわかった。かと言って、連絡先を聞くことなんかできない…そんな勇気ない…ここまでか…。
するとイケメンが何やらメモを差し出し、

「あのさ、これ…俺のバイト先。その…週末とか結構いるから、もし良かったら…」

えー！！！やだー！！！

「あ、ありがとう！」

ありがとう、で合ってる？

ドキドキしながら車に戻ると「彼に会えた？」と母。何だよー！もう！お母さーん！！！

次の週末もう会いにいってもいいのかな？すぐ過ぎる？でも早めの方が良いよね？
美咲ー！後で電話するからこのあとどうすればいいか教えてくれー！！！

 

ちなみに私はずっと共学の学校に通ってました。共学に通おうと女子校に通おうと彼氏ってできる人にはできるし、できない人にはできないんですよね。

（次回は10月更新予定です）