TOP / 首都高パラレルワールド / VOL04.『首都高にある鏡』〜 渋谷編 ~

Column

首都高パラレルワールド

ジャルジャル福徳さんが贈るショートショート

『首都高にある鏡』
〜渋谷編~

「首都高に、自分が運転する姿を見られるスポットがあるんだよ」

助手席に座った宇美が嬉しそうに言った。
広尾でランチを食べたあと、コインパーキングに停めた車に乗り込むも、目的地は決まっていなかった。
「ふーん」
楽しそうな質問に、クールぶった返事をしてしまうのは、僕の悪い癖。
「見たいでしょ?」
こちらのテンションにつられず、楽しそうなテンションを維持していられるのは、宇美のチャームポイント。
「首都高のどこで?」
「私が知る限り、2か所ある。渋谷と一ノ橋ジャンクション」
2か所を強調する宇美の手は、ピースサインにしか見えなかった。
「どうやって見れるんだ?」
「首都高沿いの建物の窓に反射するの」
「あっ、そういうことか。わき見運転はしない主義なもんで」
「当然。じゃ私が運転する」
「結局、自分の運転姿は見れないな」
「そだね。で、どっちがいい? 渋谷? 一ノ橋ジャンクション?」

僕は〈一ノ橋ジャンクション〉がどこなのかが、イマイチわからなかったから、「渋谷」と返事をした。
宇美の運転で、天現寺入口から目黒線上りに入り、都心環状線外回り、そして、谷町ジャンクションから渋谷線下りを走った。
六本木を過ぎ、小さなトンネルを抜けると、渋谷の街並みが、圧倒的都会力を見せつけてくる。

「もうすぐ。左側ね。大きい黒いビル。窓がマジックミラーみたいになってるから。一瞬だよ」
「はーい」
胸の高鳴りとは裏腹に、素っ気ない返事をするのは、僕のダサさ。
「そこだよ!……ここ」
左側の大きな黒いビルの窓に、僕らが乗っている車が、鏡のようにはっきりと映っていた。

助手席に座る自分と目が合う。
その奥に、まっすぐ前を向いて運転する宇美がいた。
「見えた?」
宇美が聞いてくる。
「見えた」
「どうだった?」
「むなしくなった」
正直に答えた。

首都高という、あまりにも巨大な蛇。
その上を走る小さな車の中にいた、小さな人間2人。
出会い、照れ合い、誘い合い、伝え合い、恋人という関係を築いた。
その全てが無意味でちっぽけに思えた。
「そういうところだよ。私、キミのそういうところが好きなんだよね。普通、こんなどうでもいいことに、感受されないよ」
「ふーん」
照れ隠しで、ぶっきらぼうな返事をするのは、僕の日常。

首都高の断続渋滞でノロノロ運転をしながら、渋谷の景色を横目に、僕はあの日のことを鮮明に思い出していた。
「首都高に、自分が運転する姿を見れるスポットがあるんだよ」
助手席でスマホを見ている彼女に声をかけた。
彼女は宇美ではない。
宇美とはとっくに別れた。
オレンジとグレープフルーツどっちが美味しいか、で始まるようなケンカしかしたことがなかった僕と宇美には、2人のねじれが原因で始まるケンカはあまりにも刺激が強すぎた。
「へー」
スマホを見たままの彼女はぶっきらぼうな返事をした。

ここで、大橋ジャンクションの合流の影響で、車は完全停止した。都合よく、黒いビルの真横で。
左に目をやると、助手席に座る彼女の横顔越しに、僕と彼女が乗っている車が黒いビルに反射していた。
車の中には当然、僕と彼女がいた。
僕からの光景は、手前から、助手席に座る彼女の実像、助手席に座る彼女の虚像、運転している僕の虚像だった。
視線を感じた彼女は僕の顔を見てから、僕の視線の先を追っかけるように左側を見た。
「こんなに、はっきり見えるんだ」
彼女はそう言って、ビルに映る僕に向かって手を振った。
だから僕は手を振り返した。
彼女は何事もなかったかのようにスマホに視線を戻す。
「オレたち、案外、お似合いだな」
彼女がピースをしながら「いぇーい」とふざけた。
前の車が少しだけ前進した。
僕は軽くアクセルを踏んで、同じことをもう一度言った。

「オレたち、案外、お似合いだな」
「知ってるよ」
彼女が笑いながら言った。

PROFILE

ジャルジャル
福徳秀介

1983年兵庫県⽣まれ。2003年、⾼校時代ラグビー部の仲間だった後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。キングオブコント2020優勝。愛⾞はフォルクスワーゲン タイプ2。

1983年兵庫県⽣まれ。2003年、⾼校時代ラグビー部の仲間だった後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。キングオブコント2020優勝。愛⾞はフォルクスワーゲン タイプ2。

アナザーストーリーは「⾸都⾼じゃらん」をご覧ください!

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首都高PAのほか、海ほたるなど関東近郊のPAや道の駅、都内駐車場などで配布しております。

※その他、東京近郊の商業施設や⾃治体に設置中

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