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Column

首都高パラレルワールド

ジャルジャル福徳さんが贈るショートショート

『グミの信号機』

僕は、躊躇なく、青いグミを食べた。

レインボーブリッジにさしかかる愛車。
目的地は豊洲。
助手席では恋人のキサキが、カーナビの液晶画面を押しながら、「25歳になってもグミ愛が止まらない」と、グミをもぐもぐ食べていた。
そして、袋からグミを1粒取って、「いる?」と運転している僕に聞いてきた。「いらない」と答えると、そのグミを袋に戻した。
キサキは自分だけがグミを食べている罪悪感から、「いる?」と聞いているのではない。本当に僕のためにグミを取ってくれたのだ。
罪悪感から「いる?」と聞いてくるような人は、自分がグミを食べているついでに「いる?」と聞く。その結果「いらない」と言われたら、そのままそのグミを食べるだろう。僕のためにグミを取ってくれたキサキが、とてつもなく可愛かった。
再びグミを食べ始めるキサキ。色とりどりのグミ。
青いグミを食べ、次は黄色いグミ、そして赤いグミ、また赤、さらに赤、さらに赤。4粒連続赤。
青、黄、赤、赤、赤、赤。

「おい、これ、なんじゃ」
口調がいつものキサキではなかった。
僕は瞬時に原因がわかった。
カーナビの履歴を見られた。履歴は厄介なことに、日付と時刻までを記録していた。
そこには先週の土曜日の昼、巨大テーマパークに行った痕跡が。さらにその日の夜、番地まで丁寧に打ち込んだ千葉市の住所が表示されていた。キサキと会う約束を「仕事が入った」とキャンセルしていた日。

「安い男だったね」
何も言えずにいた僕は、先週の土曜日に会った女を思い出していた。
キサキと同じように助手席でグミを食べていた女。そして「いる?」と聞いてきた女は、僕が「いらない」と答えると、そのグミを食べた。所詮、自分のために取ったグミだった。

「おい、この住所に行くぞ。誰の家だよ」
そう言ったキサキはカーナビの行き先を変更した。
全ての悪を認めて、「グミを袋に戻すキサキが好きなんだ!」と言おうと考えたが、僕のグミの見解には効力がないと判断して何も言わなかった。
車は東雲ジャンクション。斜め左に進めば、晴海線上り、豊洲出口。
直進すればカーナビの指示どおり、千葉市へ。
いまだに返事をしていない僕はカーナビを無視して、東雲ジャンクションを斜め左に進み、豊洲出口に向かった。

「てめぇ、逃げんなよ」
本来のキサキの話し方を忘れそうになる。
「豊洲おりたら、私もおりるから。わざわざ問い詰めないから安心して。よかったね。言い訳考えなくていいよ」
豊洲出口を下り、車を路肩に停めると、逃げるように出ていくキサキは、袋に入った残りのグミを全て手のひらに乗せ、何も言わず投げつけてきた。そして、ドアを強く閉めた。
車内には色とりどりのグミが散らばった。

 洗車中、運転席の下でグミを発見した。
3年前のあの日、キサキが投げつけてきたグミ。この3年間、何度も洗車をしたにもかかわらず、見つけることができなかった。
またキサキに会いたい。でも、そんな資格はない。
僕は、躊躇なく、青いグミを食べた。
柔らかいはずのグミは硬かった。味もしなかった。

「首都高じゃらん」に掲載していたアナザーストーリーはこちら!

『グミの見解は伝わらない』

レインボーブリッジにさしかかる愛車。
目的地は豊洲。
助手席では恋人のキサキが、カーナビの液晶画面を押しながら、「25才になってもグミ愛が止まらない」と、グミをもぐもぐ食べていた。
そして、袋からグミを1粒取って、「いる?」と運転している僕に聞いてきた。「いらない」と答えると、そのグミを袋に戻した。
キサキは自分だけがグミを食べている罪悪感から、「いる?」と聞いているのではない。本当に僕のためにグミを取ってくれたのだ。
罪悪感から「いる?」と聞いてくるような人は、自分がグミを食べているついでに「いる?」と聞く。その結果「いらない」と言われたら、そのままそのグミを食べるだろう。
僕のためにグミを取ってくれたキサキがとてつもなく可愛かった。
レインボーブリッジから見える海は青くて、車のボンネットは黄色くて、キサキが袋に戻したグミは赤かった。
「おい、これ、なんじゃ」
口調がいつものキサキではなかった。
僕は瞬時に原因がわかった。

カーナビの履歴。
先週の土曜日の昼、巨大テーマパークに行き、さらにその日の夜、番地まで丁寧に打ち込んだ千葉市の住所へ行った痕跡が。キサキと会う約束を「仕事が入った」とキャンセルしていた日に。
「安い男だったね」
何も言えずにいた僕は、先週の土曜日に会った女を思い出していた。
キサキと同じように助手席でグミを食べていた女。そして「いる?」と聞いてきた女は、僕が「いらない」と答えると、そのグミを食べた。 「おい、この住所に行くぞ。誰の家だよ。」
そう言ったキサキは行き先を変更した。
「グミを袋に戻すキサキが一番好きなんだ!」
僕の悪あがき。
「は?」
呆れているキサキ。

車は東雲ジャンクションにさしかかっていて、斜め左に進めば、予定どおり、晴海線上り、豊洲出口へ。
直進すればカーナビの指示どおり、千葉市へ。
これ以上の失敗は許されないと、僕はカーナビに従った。
「てめぇ、バカか。どうせこんなとこに行ってもいい結果じゃねぇだろ」
 そう言ったキサキは、袋に入った残りのグミを全て手のひらに乗せて、車内に撒いた。
「鬼は外ー! 鬼は外ー! 鬼は外ー!」
しがみつくように僕も声を出した。
「福は内ー!」
「こねぇーよ。バーカ」

PROFILE

ジャルジャル
福徳秀介

1983年兵庫県⽣まれ。2003年、⾼校時代ラグビー部の仲間だった後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。キングオブコント2020優勝。愛⾞はフォルクスワーゲン タイプ2。

1983年兵庫県⽣まれ。2003年、⾼校時代ラグビー部の仲間だった後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。キングオブコント2020優勝。愛⾞はフォルクスワーゲン タイプ2。

アナザーストーリーは「⾸都⾼じゃらん」をご覧ください!

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首都高PAのほか、海ほたるなど関東近郊のPAや道の駅、都内駐車場などで配布しております。

※その他、東京近郊の商業施設や⾃治体に設置中

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