TOP / 首都高パラレルワールド / VOL08.『首都高が好きなの〜首都高ウザくない編〜』

Column

首都高パラレルワールド

ジャルジャル福徳さんが贈るショートショート

『首都高が好きなの〜首都高ウザくない編〜』

「のぞみの家まで送るよ。これで最後だし。池袋なんて首都高ですぐだし」とアナタは私に言った。

 ハンドルを握っているアナタは「オレたち、なんだかんだ楽しかったよな?」と、首都高の〈豊洲入口〉に入ったときに言った。助手席にいる私は何も言えなかった。
 私はアナタの言葉に踏まれている感覚。
 雪道を歩くと、足音は雪を踏む音。
 花畑を歩くと、足音は土を踏む音。
 花は踏まれても音がしないのね。
 私は花? いいえ。そんなに美しいものじゃないよ。
 だから何? なんの話?
 アナタは真っ直ぐな人。だから好きになった。でもその真っ直ぐさに私は傷つけられている。

 豊洲の大型ショッピングモールの映画館で映画を見終わった昼過ぎ、アナタは馬鹿正直に「他に好きな人ができた」と打ち明けてきた。その真っ直ぐさは不必要。嘘も時には必要。私を叩きのめしてくるアナタの言葉。「わかった」と言うしかなかった。そもそも映画を見る前に言って欲しかった。映画を一緒に見る約束を果たす真っ直ぐさは不必要過ぎる。
 首都高の流れにスムーズに合流したアナタは、「ってか、わかってたでしょ!? オレに好きな人ができたって」と再び言葉で私を踏みつけてきた。
 何も言えなかったけど、気合いで「うん」と言った。
 随分と嬉しそうなアナタ。
 アナタという存在に耐えられなくなった私は「首都高から下りよう」とお願いをしたら、「なんで? 下道だと時間かかるし」と言った。私は決して、アナタといる時間を少しでも長くしようとしているわけではない。
 言葉で何度も踏まれた私はようやく音を立てた。
「首都高を嫌いになりたくないから! 首都高好きなの!」
 なぜアナタのことを嫌いにならないで、首都高を嫌いになっちゃうの。小さい頃から首都高は私をたくさんの場所へ連れて行ってくれた。

 辰巳ジャンクションを抜ける途中、目に飛び込んだ辰巳パーキングエリアを指さして私は「そこで降ろして!」と強く言った。
 アナタは戸惑いながらも、どこか嬉しそうに「本当にいいんだな。帰れるんだな」と、私をパーキングエリアで落として、「じゃ今までありがとう」と本線へと車を発進させた。
 一人になった私は、辰巳パーキングエリアからの展望台顔負けの景色のおかげか、やたらと冷静で、飲み物でも買おうと、自動販売機を物色。いくつもの自動販売機が並んだ一番端に、『ご自由にお取りください』と、冊子やフリーペーパーが入ったラックを見つけ、適当に〈首都高じゃらん〉を手に取った。特集は、冬のロマンチックデート、だった。
 今の私の状況を、〈首都高じゃらん〉に嘲笑われている気がしながらも、パラパラとページをめくった。
「ん?」

 〈首都高パラレルワールド〉という妙に浮いているページを見つけた。
 どうやらジャルジャルの福徳がショートショートを書いている。
 タイトルは、「『パンとパン』、東京タワーを見せない編。」
「読んでみよっと」
 誰もいないことをいいことにしっかりとしたひとり言を発してから、黙読した。
 悪くない。
 どうやらWEB版もあるらしく、QRコードにアクセスした。
 こちらのタイトルは、東京タワーを見せる編、だった。同じ話でも、冊子とWEBでストーリーが違うという構成か。
 これも悪くない。

 そのまま下にスクロールすると過去のWEB版のバックナンバーも読めた。今回のは7回目。残り6回分の〈首都高パラレルワールド〉を全て読んだ。
 Vol.6 グミの信号機
 Vol.5 つまずく
 Vol.4 首都高にある鏡
 Vol.3 首都高で急ぐフリして遠回り
 Vol.2 ロールパンと黄色の車
 Vol.1 ロサンゼルスの代わりにお台場へ
「悪くないじゃん」
 Vol.1の女性の名前が可愛かった。朱菜。しゅな。首都高の、しゅ、だなと無駄なことを考えた。
「ん?」
 Vol.1からVol.7まで順番に、助手席に座っている人物やモノを見直した。

朱菜
透明の袋に入った大量のロールパン
小竹さん
宇美
スミレ
キサキ
ナミ

 やっぱり。
 頭文字を並べると、しゅ、と、こ、う、す、き、な‥‥首都高好きな‥‥次号の助手席は誰かな。

「首都高じゃらん」に掲載していたアナザーストーリーはこちら!

『首都高が便利すぎて、記憶に残らない別れ方をした〜首都高ウザい編〜』

「のぞみの家まで送るよ。これで最後だし。池袋、首都高ですぐ」とアナタは私に言った。
 ハンドルを握っているアナタは「オレたち、なんだかんだ楽しかったよな?」と、首都高の〈豊洲入口〉に入ったときに言った。助手席にいる私は何も言えなかった。
 私はアナタの言葉に踏まれている感覚。
 雪道を歩くと、足音は雪を踏む音。
 花畑を歩くと、足音は土を踏む音。
 花は踏まれても音がしないのね。
 私は花? いいえ。そんなに美しいものじゃないよ。
 アナタは真っ直ぐな人。だから好きになった。でもその真っ直ぐさに私は傷つけられている。
 豊洲の大型ショッピングモールの映画館で映画を見終わった昼過ぎ、アナタは馬鹿正直に「他に好きな人ができた」と打ち明けてきた。その真っ直ぐさは不必要。嘘も時には必要。私を叩きのめしてくるアナタの言葉。「わかった」と言うしかなかった。
首都高の流れにスムーズに合流したアナタは、「ってか、わかってたでしょ!?
オレに好きな人ができたって」と再び言葉で私を踏みつけてきた。

 気合いで「うん」と言った。
 随分と嬉しそうなアナタ。
アナタという存在に耐えられなくなった私は「首都高から下りよう」とお願いをした。するとアナタは、「なんで?下道だと時間かかるし」と言った。私は決して、アナタといる時間を少しでも長くしようとしているわけではない。
言葉で何度も踏まれた私はようやく音を立てた。
「首都高を嫌いになりたくないから!」
なぜアナタのことを嫌いにならないで、首都高を嫌いになっちゃうの。小さい頃から首都高は私をたくさんの場所へ連れて行ってくれた。 目に飛び込んだ〈辰巳パーキングエリア〉を指さして私は「そこで降ろして!」と強く言った。
それでもアナタは「ダメだよ。責任持って家まで送るよ」と、また無駄な真っ直ぐさを押し付けてきた。もはや私は本当に降ろして欲しかった。まだお昼だから、家に帰されても困る時間帯。せっかくの休み。
そして、便利すぎる首都高は池袋まで、ものの30分で到着し、私は車から降りて、あの人と別れた。
首都高便利過ぎ。
ドラマチックにもロマンチックにもならない。
もしかすると恋人をフる人は首都高に感謝して、フラれる人は首都高ウザいと思っているかも。
一方で、好きな人に会いに行く人は首都高に超感謝して、好きな人を送り届ける人は首都高ウザいと思っているかも。

PROFILE

ジャルジャル
福徳秀介

1983年兵庫県⽣まれ。2003年、⾼校時代ラグビー部の仲間だった後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。キングオブコント2020優勝。愛⾞はフォルクスワーゲン タイプ2。

1983年兵庫県⽣まれ。2003年、⾼校時代ラグビー部の仲間だった後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。キングオブコント2020優勝。愛⾞はフォルクスワーゲン タイプ2。

アナザーストーリーは「⾸都⾼じゃらん」をご覧ください!

アナザーストーリーは「⾸都⾼じゃらん」をご覧ください!

配布先

首都高PAのほか、海ほたるなど関東近郊のPAや道の駅、都内駐車場などで配布しております。

※その他、東京近郊の商業施設や⾃治体に設置中

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