首都高では、都市部の道路空間を生かした自然共生の取り組みを進めています。
その代表的な活動の場が、埼玉新都心線の高架下に整備された「見沼たんぼ首都高ビオトープ」と、3号渋谷線と中央環状線が接続する大橋ジャンクションの換気所屋上に整備された「おおはし里の杜」です。
これらの場所は、生物多様性の保全や地域の環境学習の場として活用されており、在来動植物の保全や外来種対策など、さまざまな活動が行われています。
「見沼たんぼ首都高ビオトープ」とは
「見沼たんぼ首都高ビオトープ※」は、埼玉新都心線の高架下に広がる延長約1.7kmのビオトープ※です。
※「見沼たんぼ首都高ビオトープ」について
見沼たんぼに高速道路を建設する際、周辺の自然環境を守るための協議を重ね、1993年に「高架下にビオトープを導入する」方針が示されたことから整備が始まりました。
専門家や地域の方々と協力しながら、首都近郊に残された希少な緑地空間である見沼たんぼ地域の生態系を再生した「見沼たんぼ首都高ビオトープ」は、現在、生物多様性の保全だけでなく、園児の自然体験会や大学・専門学校の実習など、地域の学びの場としても活用されております。
今回は、2025年11月に東京環境工科専門学校の皆さんと行った実習の様子をご紹介します。
ビオトープの成り立ちと生物多様性を学ぶ「見沼たんぼ首都高ビオトープ」実習レポート
実習では、見沼たんぼ首都高ビオトープの自然環境を守るため、様々な活動に取り組みます。昆虫や水生動物の調査、自然観察、巣箱づくりに加え、在来植物の移植や外来種の防除など、学生さんたちは学校で事前授業を受けたうえで参加し、懸命に自然保護の実践に挑戦しました。
公益財団法人埼玉県生態系保護協会(以下、保護協会)や地域ボランティアの方々、そして首都高社員も参加し、約一日かけて「学んで、見て、やってみる」体験を通じて、高架下のビオトープがどのように維持されているかを学びました。
実は見沼たんぼ首都高ビオトープでは、高木・中木・低木がそれぞれ植えられ、"ゾーン分け"がされています。これは、自然の森のように高さの違う木々を組み合わせることで、森林が本来もつ階層構造を再現するとともに、高架下の景観にも配慮したものです。

高架下という日照や降雨が限られた環境の中で、多くの専門家や地域の方々の協力により、試行錯誤を重ねて今のビオトープがあるという成り立ちの経緯を学びました。また、キツネやカワセミなどのビオトープに暮らす生きものの話に加えて、埼玉県の蝶、かつ、埼玉県準絶滅危惧種に指定されている「ミドリシジミ」を呼び戻す「ハンノキ・プロジェクト」の取り組みも紹介されました。
学生さんたちは、ビオトープが「人の手で守られ、支えられている場所」であることを熱心に学んでいました。

埼玉県の蝶「ミドリシジミ」の標本
■虫取り網で昆虫を採取!生物の多様性を調査
全体説明の後は、ビオトープにいる昆虫の調査体験をしました。保護協会の方から、スイーピング、ビーティングといった採集手法、虫取り網の扱い方などの説明があり、学生さんはチームに分かれて低木の葉を払ったり、枝先をたたいたりしながら実地調査を開始しました。昆虫を見つけるたびに「いた!」と歓声が上がります。カメムシのような見慣れた虫から、名前のわからない虫まで、虫かごには次々と生きものが集められ、まるで宝探しのようでした。



採集が終わった後は、採集した昆虫を発表しながら「同定(採集した昆虫がどんな種類かを特定すること)」を行いました。11月は昆虫の活動が少なくなる時期ですが、短時間でバッタやチョウなどさまざまな種類の昆虫を捕獲することができました。保護協会の方による虫の名前や生態についての解説に、学生さんたちは身を乗り出して耳を傾けていました。驚くべきことに、このビオトープには、約900〜1,000種類もの昆虫が生息しており、その生態系の豊かさを改めて実感する機会となりました。
また、チュウゴクアミガサハゴロモ※に寄生したハゴロモヤドリガの幼虫が見つかる貴重な場面もあり、生きもの同士の関係性や生態系の仕組みを知るきっかけになりました。
※近年各地で生息が確認されている外来昆虫
外来種が植物に及ぼす影響だけでなく、実は益虫でもあるスズメバチとの共存の大切さも教わり、学生さんたちはビオトープに息づく"多様な命のつながり"を学んでいました。
■初めての工具にも挑戦!シジュウカラとセキレイの巣箱づくり
午後の実習は、中木ゾーンへ場所を移動して開始しました。

中木ゾーンでエリアの特徴などの説明を受ける学生さんたち

コウモリの巣箱について教えてもらう学生さんたち。中木ゾーンにも、タヌキの繁殖用人工巣穴や、カワセミの繁殖用盛土など、生きものが暮らしやすい環境を整えるためのさまざまな工夫が施されています。
今回、学生さんたちが挑戦したのは、シジュウカラとセキレイ用の巣箱づくりです。鳥の種類によって巣の場所が異なるため、巣箱の仕様も少しずつ違います。たとえばシジュウカラの巣穴は約2.8cmが適切で、屋根は雨水が流れるようにずらして取り付けるなど、細かな工夫が必要です。
作業手順の説明を受けた後は、鳥の種類ごとにチームに分かれて作業を開始します。保護協会のスタッフやボランティア、先生にサポートしてもらいながら、ノコギリや電動ドリルなどの工具を使って組み立てていきます。


首都高社員(右)も一緒に参加して作製を手伝います。
「ここはこうかな?」と見本を見ながら互いに確認し合う学生さんの姿からは、楽しさの中にも真剣さが滲みます。工具を使うのが初めてという学生さんも多くいましたが、作業が進むにつれてスキルも上達し、最後にはどのチームも立派な巣箱を完成させました。完成した巣箱は後日、ビオトープ内に設置します。

完成したセキレイ用の巣箱
■ビオトープの生態系を守るために。水生生物の調査と外来種の駆除
続いて行うのは、ため池での水生動物の調査です。
まずは、生息する生きものや捕獲・計測の方法について説明を受け、全員でため池へ移動しました。

事前に仕掛けていた網を引き上げると、アメリカザリガニや小魚が次々と姿を見せ、学生さんたちの表情が一気に明るくなります。

捕獲した生きものは、外来種と在来種に仕分け、個数を記録します。アメリカザリガニは定規を使ってサイズも計測し、作業後は水槽に入れて全員で観察しました。ザリガニのほか、大きなウシガエルを捕まえたチームもいて、濁った水の中に多様な生きものがいることに驚きの声があがりました。

条件付特定外来生物に指定されている「アメリカザリガニ」。「ザリガニ返し」と呼ばれる囲いを設置して侵入を防ぐ工夫もしていますが、それでも繁殖が続いているのが現状。

特定外来生物に指定されている「ウシガエル」

ここで学んだのが、生態系を乱す特定外来生物への対処です。アメリカザリガニやウシガエルは、在来種や生態系へ与える影響が大きいため、在来の動植物を保全している見沼たんぼ首都高ビオトープでは、捕獲後の殺処分を行っています。
(外来生物法に基づき、条件付特定外来生物のアメリカザリガニ、特定外来生物のウシガエルは、原則生きたまま他の場所への運搬等ができないことになっています。)
学生さんたちは、苦痛を与えないよう配慮しながら対処する作業を通して生態系の大切さと、"命と向き合う"体験ならではの重みを肌で感じているようでした。
■この一苗がビオトープの未来をつなぐ!見沼たんぼを代表する在来植物「チガヤ」の移植
「チガヤ」は、埼玉県準絶滅危惧種である「ギンイチモンジセセリ」の幼虫が好んで食べる在来植物です。かつて周辺の荒川や芝川の堤防には広くチガヤ草地が広がり、強い根張りで堤防を守る役割も果たしてきました。水が押し寄せると地面に倒れ込んで表面を覆い、土が削られるのを防ぐ働きもあります。こうした地域本来の植生や生態系とのつながりを保つため、ビオトープ内でも、在来種であるチガヤを増やす取り組みが進められています。実習では、このチガヤの移植も体験しました。
シャベルで土を掘り起こし、チガヤの苗を丁寧に植え付け、植えたらしっかり水をかけます。一見単純な作業に見えますが、植物が根付くために重要な作業です。このチガヤがしっかり育ち増えていけば、チガヤを好む生物が増え、ビオトープの生態系がより豊かになっていくのです。

作業中、バッタやカエルを発見し、会話をしながら楽しく作業を行う学生さんたち
■最後の実習は、生態系を守るための外来植物の駆除作業
そして最後の実習は、外来植物の防除作業です。ターゲットは、この地域で増えやすいセイタカアワダチソウやコセンダングサなど抜きやすい植物もありますが、非常に数が多く、根気のいる作業です。実際に手を動かしてみると、「抜いても抜いても追いつかない」という現場の大変さや、日々の管理が欠かせないことがよく伝わってきます。
学生さんたちは軍手をはめて、次々と外来植物を抜き取り、集めた草を堆肥場へと運んでいきます。この日最後の実習ということもあり、疲れを見せることなく一生懸命作業に取り組んでいました。
こうして一日の実習は終了。最後に全員で感想を伝え合い、それぞれが今日の学びを胸に現場を後にしました。
実習を行った学生さん、先生の感想
環境保全は、多くの人の支えによって実現できることを知った(学生さん①)
見沼たんぼの歴史やミドリシジミの話、インセクトホテルなど、初めて知ることばかりでとても新鮮でした。特に、シジュウカラが外敵から身を守るために小さな穴を使い分けていることや、アメリカザリガニやウシガエルの想像以上の大きさには衝撃を受けました。これまで「環境保全」は漠然とした概念としての理解でしたが、首都高や保護協会、ボランティアの方々など、多くの人の手で守られているからこそ成り立っている取り組みなのだと実感しました。
外来種問題や自然界の生きもの同士のつながりを深く実感できた(学生さん②)
実際にフィールドで活動することで、これまで知識としてしか捉えていなかった外来種問題や生きもの同士のつながりを"実感"として理解できました。ザリガニの捕獲では外来種が与える影響の大きさを学び、巣箱づくりでは、鳥が安全に使えるように穴の大きさやフタの締め具合まで工夫するなど、環境を整えるためには細かな配慮が必要だということも勉強になりました。学校で学ぶ座学とはまた違い、自分の体を動かす活動はとても楽しく、自然と向き合う大切さを改めて感じられた一日でした。
貴重な現場での体験が、学生の学びを大きく広げてくれることに期待(先生)
他にはない貴重な実習の場を提供していただき感謝しています。自然に配慮しながら環境を整えている点は、保護協会さんの知識と経験、そして首都高さんの理解があってこそだと感じています。今回の実習は学生にとって大きな学びになり、企業の環境への取り組みを知る良い機会にもなりました。
自然との共生をさらに進めるために──おおはし里の杜の取り組み
大橋ジャンクションの換気所屋上に位置する「おおはし里の杜」は、かつての目黒川周辺の原風景をモデルに、多様な生きものの生息・生育空間である「生きもの中心の緑地」として整備されました。

ここでは、毎年近隣の小学生を招待し、稲作体験(田植え、自然観察会、稲刈り、脱穀)を開催しており、これらの体験を年間通じて、自然学習や農体験、食育など多面的な学習に寄与すると共に、社内研修の一環として若手社員も参加することで、環境や地域社会との共生に対する理解を促進しています。
また、他にも近隣の保育園や目黒区教育委員会と連例し、環境学習の場を提供しています。

おおはし里の杜は、生きものへの配慮等のため普段は入ることができませんが、年に数回一般公開を行っています。次回は2026年3月頃を予定しておりますので、ぜひ遊びにいらしてください。
次世代の豊かな暮らしにつながる生物多様性の保全と地域社会との共生を推進
首都高では経営理念である「地域社会との共生」のもと、地域の皆さまとともによりよい環境の実現と地域社会の発展を目指していきます。
今後も「見沼たんぼ首都高ビオトープ」や「おおはし里の杜」等の取り組みを推進し、近隣に点在する他の緑地と連携することでエコロジカル・ネットワークを形成し、都市部における生物多様性の保全に寄与していきます。
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