タワーサイドメモリー

東京の風景で最も好きなシーンを聞かれたら、「首都高を走りながら見える夜景」と言いたい。そしてそんななかでの1シーンを切り取るとすれば、『芝公園付近with東京タワー』と答えるだろう。首都高都心環状線の芝公園付近。きっと、この地点が好きな方、私だけではないのでは。

ただ、私にとってソコは忘れられない思い出のある場所でもあるのです。
免許を取ったばかりの頃、父の趣味に付き合って、夢の島マリーナまで行ったことがあった。帰り道は私の運転で家まで戻ることになり、その途中で私の車線変更の乱暴さを指摘されたのだ。どういう訳か大学時代の先輩方の素早い平行移動のような車線変更を「かっこいい!」と、とんだ勘違いをしていた過去の私。父に良いところを見せようと、湾岸線の新木場付近の直線でもそんな運転をしていたと記憶している。そして都心環状線に入り、芝公園の手前あたりで父がいよいよ「そんな運転、誰に教わったんだ!」と一喝。車内には沈黙の時間(とき)が流れ、車外では東京タワーが流れるように見えていた。薄々はそんな運転はNGだと気づいていただけに言い訳もできず、すがるような目で東京タワーをそれとなく視界のなかで追っていたことを、時々、我ながら微笑ましく思い出す。

そして時は流れ、都内で暮らす今は昼夜を問わずこのエリアを利用することも多くなった。夜になれば車内に乗る人の顔を赤く映し出すくらいに東京タワーは間近で、明るくて大きい。私の大好きな東京首都高夜景ドライブは、これからやってくる冬の澄んだ空気のなかで見るのが最も美しいと思う。

こんな風に都会の道路を紹介する私も、かつては首都高の路線に不慣れでジャンクションというものが大の苦手な上、合流で道を空けてくれないドライバーにおびえ、首都高はなるべく避けて通りたいと思っていた。今では都心部を走るドライバーのマナー向上が実感できるし、標識や路面のペイントの案内などの整備が進み、クルマには、ナビゲーションシステムも当たり前のように装備される時代。さらに言えば、“前車追従式のクルーズコントロール”のような先進安全技術も装備に加わり、渋滞のストレスや事故を軽減してくれている。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催も近づき、インバウンド効果で海外の方が観光バスやタクシーで首都高を通過する機会も増えているだろう。クルマと道路の関係が向上しつつあるいま、ドライバーも、車線変更や合流の譲り合い、車間距離などについて今一度、見直してみるのもよいのではないかしら。なんてことを、私も未だに襟を正すランドマークならぬリマインドマークにしている東京タワー脇を通ったときに皆様にも思い出していただけたら幸いです。

飯田裕子さん
(モータージャーナリスト/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員)

profile
自動車メーカーに勤務したのち、フリーのモータージャーナリストに転身。「人×クルマ×生活」をテーマにクルマの紹介はもちろん、環境/安全/ドライブの提案など幅広く活躍。近年の自動車の電動化や自動運転、I o T化、また道路インフラなど今後の自動車環境を取り巻く技術や整備についても積極的に取材を進めている。一方でOL時代から始めた自動車レースの経験を活かしドライビングスクールで自動車ユーザーに安全でエコで楽しい運転の啓蒙にも力を入れている。
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